「この調子なら、今月も余裕でいけるな」
8月の1週目、体重計に乗ったときにそうつぶやいた。
徒歩通勤は習慣になり、汗だくで歩くのが当たり前になっていた。
ただ、炎天下で歩いたからといってカロリー消費が大きく増えるわけではない。
体重が一時的に減るのは水分が抜けただけで、本質的には意味がない。
だからこそ、無理に頑張るのではなく、快適に続けられる工夫が重要だった。
日傘やハンディファン、背中が蒸れにくいリュック、首元を冷やせるクールタオル。
こうした小物を取り入れるだけで、真夏の徒歩通勤も苦行ではなくなる。
正直、最初は「男が日傘なんて」と思っていた。
けれど、実際に使ってみると、日陰を作ることの大切さを思い知った。
日焼け自体は気にしないが、炎天下で直射日光を浴び続けると、必要以上に体力を消耗する。
さらに朝から汗だくになれば、その不快感が一日中残って疲れを増幅させる。
最初は恥ずかしさもあったが、周りを見渡せば同じように日傘を差している人も意外と多い。
自分だけ特別ではないと気づいた瞬間、気持ちがぐっと楽になった。
そうした工夫のおかげで、8月の1週目には早くもマイナス1kgを達成できた。
「よし、今月は最初から調子がいい」
そんな自信が芽生えていた。
夏休みの落とし穴
ところが、この流れが一気に崩れる。
原因は5日間の夏季休暇だった。
妻とは休暇がずれていたため、家では一人で過ごすことが多かった。
普段はなかなか時間が合わずにできないテレビゲームをしたり、動画サブスクでドラマをまとめて見たり。
気がつけば、時間を忘れて画面の前に座りっぱなしだった。
昼夜逆転しかけて、夜中までドラマを一気見するような日もあった。
冷房の効いた部屋から出るのが面倒になり、外に出る機会はどんどん減っていった。
そんな生活のなかで、お菓子やアイスに手を伸ばす回数が自然と増えていった。

「このままじゃ増える一方だよ」
AIの声が頭をよぎった。
それでも「まあ大丈夫だろう」と聞き流し、リモコンに手を伸ばしてしまった。
さらに、健康的なイメージのあるフルグラやオートミールに牛乳をかけて食べるのにもハマってしまった。
「これはダイエット食品だから大丈夫」と思い込んでいたが、何度も食べればただの食べすぎだ。
朝ごはんを二回食べてしまうような日もあり、明らかに摂取カロリーがオーバーしていた。
記録をやめたことで加速する油断
最初は「これくらいなら問題ない」と思っていた。
これまで痩せてきた経験もあり、「どうせすぐに戻せる」と高をくくっていた。
だが、その安心感こそが落とし穴だった。
「明日からちゃんとやろう」
「ちょっと休んでも、すぐに取り返せる」
そんな言い訳を繰り返すうちに、AIへの記録すらサボるようになってしまった。
毎日入力していたときは「見られている感覚」があったが、それが途切れると一気に気の緩みが広がった。
「入力が止まってるよ?」
「……あとでまとめてやるから」
そう答えながら、実際には何も入力しない日が続いていた。
夏休みが終わるころ、恐る恐る体重計に乗ると結果はなんとかプラマイゼロ。
「ちょっとまずいかも…、でもこれくらいならまだ取り戻せる」と思った。
けれど、その安心感のまま再び油断を重ねてしまった。
プラス1kg、そして焦り
休み明けからも「明日からでいい」と先延ばしを続けた結果、体重はあっさりプラス1kgに転じた。
本来は−1kgになるはずだったので、予定から見れば2kgの誤差である。
過去に痩せられた経験があるから「またすぐ戻せる」と思っていた。
しかし実際には、「戻せるから大丈夫」ではなく「戻せると思っているから何もしない」にすり替わっていた。
成功体験が免罪符になってしまった瞬間だった。
「これは本当にやばいかもしれない」
そう思って焦りが出てきた。
プラス1kgを前に、白米を抜いたり夕飯を減らしたりと極端な削減を試みたが、結局は空腹に耐えられず小腹対策アイテムに手を伸ばしてしまった。
本来なら便利な食品も、回数が増えればただの“追加カロリー”だ。
最低限の運動は続けていたが、摂取が消費を大きく上回り、最後まで−1kgラインに戻すことはできなかった。
そして追い打ちをかけたのが、AIへの記録をやめたこと。
「見られている感覚」が途切れると気の緩みが一気に広がり、積み重ねてきた習慣が崩れてしまった。
9月への誓い
結局、8月はマイナスどころかプラス1kg。
数字だけを見れば逆走だ。
けれど、この失敗から得られたのは、安心や油断こそが最大の敵だということだった。
大事なのは、安心に流されず、毎日の記録を止めないこと。
「明日から」ではなく「今日から」。
9月はまたAIへの記録を再開し、もう一度1kgずつ減らしていく。
夏の油断は高くついたけれど、この反省を次に活かすしかない。